”デジタルトランスフォーメーション(DX)”を今一度整理してみる。

”デジタルトランスフォーメーション(DX)”がIT業界特有の、ふわっとした定義の多義的な用語であるため、いろいろな人がいろいろな文脈で使っています。(で始めの頃の”クラウド”とか良い例じゃないかと)何でも”DX”言っておけばいいのだろと言わんばかりの営業メッセージから、政策論を展開するものまで諸説が飛び交っている昨今ですが、自分も”DX”についてお話する機会も増えましたので、ちょっと頭の整理も兼ねて、情報を整理していきたいと思います。

そもそもはスウェーデンの先生が発端

”デジタルトランスフォーメーション”というの用語は、2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン(Eric Stolterman)教授が提唱したとされています。

INFORMATION TECHNOLOGY AND THE GOOD LIFE
http://www8.informatik.umu.se/~acroon/Publikationer%20Anna/Stolterman.pdf

この論文自体は適切な研究ポジションを確立する試みとして、研究の方法論を展開した内容になっていて、今でいう所の”サイバーフィジカル”(デジタル空間と実世界とが結びついている状態)の概念に近いものを提示されています。

なぜ”DX”と略されるか

”Digital Transformation”の略であれば、”DT”と呼ばれてもおかしくありませんが、接頭辞”Trans”を省略する際に”X”と表記する習慣から
Digital Transformation → DX と表記するようになったとのこと。

政策課題としてのDX

昨今、ここまで”DX”というキーワードが使われるようになった契機としては、2018年に経済産業省から発表された 「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」 があります。

デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会の報告書『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』をとりまとめました
https://www.meti.go.jp/press/2018/09/20180907010/20180907010.html
デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)を取りまとめました
https://www.meti.go.jp/press/2018/12/20181212004/20181212004.html

これらのガイドラインでのDXの定義は

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

これを私なりに解釈すると、生活者は90年代のパソコンの普及から最近のスマートフォン端末の広い範囲での利用に至るまで、情報処理のデバイスの利用、ネットワークに容易にアクセス出来ることからのコミュニケーション能力の大幅な拡大に伴い、ストールターマン教授のいうIT技術の浸透による現実と情報世界との融合が進んできています。

具体的には、購買行動が実店舗からECへの移行が顕著ですし、実店舗での支払いも現金からキャッシュレス決済への移行が促進されています。
これらの提供側も、受発注手続きがFAXからEDIが使われるようになったり、販売管理、在庫管理なども、かつての台帳ベースからPCアプリ、さらには専用SaaSの利用など、どんどんデジタル化が進んでいます。

このようなIT技術の普及により
(1)サービスの提供方法におけるデジタル利用
(2)IT技術を駆使したバックヤード業務の効率化
「競争上の優位性を確立」するために、サービスの在り方そのものをデジタル技術を利用して魅力的なものにしていこうという動きと、オペレーションを効率化して収益性を上げていくという、2つの方向感があると考えられます。

かつてのIT政策:e-Japan 構想

政策としてのIT促進は、経産省からのDXの提言が初めていうわけでもなく、2000年からE-Japan構想として日本型IT社会の実現を目指す青写真が提示されました。
https://www.kantei.go.jp/jp/it/network/dai1/1siryou05_2.html

e-Japan構想での重点方策として2001年にe-Japan戦略として 1)超高速ネットワークインフラ整備及び競争政策、2)電子商取引と新たな環境整備、3)電子政府の実現、4)人材育成の強化 が挙げられました。

2006年からはIT新改革戦略として新たなIT国家戦略を策定。次世代ブロードバンドの普及など一定の成果が上がったと思います。

ただ政治関連のIT化としては、「役所の窓口手続きを全てオンラインで出来るようにする」は達成に程遠い状況ですし、住基カードの普及・利用状況についても疑問が残る所です。

「2025年の崖」問題

話を先の経産省DXレポートに戻すと、DXを進めなければいけない理由として「2025年の崖」問題が提示されました。これはITの普及拡大に伴う人材需要に足して、供給側の不足(人口動態やスキルのミスマッチ)による人手不足がIT業界でも顕著になる。また、現状のIT業界の産業構造として、既存のレガシーシステムの保守に予算・人材の80%近くが投入されており、新規のデジタル施策に対応できない問題が指摘されています。

つまりは守りのIT施策で手一杯で、攻めのIT投資に向かえない構造を放置すると、2025年以降では日の丸ITは、いよいよ国際競争力を失ってじり貧になるという未来予想図です。
 人口ピラミッドを考えれば若手は減りますし、IoT導入が本格化するとなれば、管理対象のノード数は爆発的に増えるわけですし、レガシーを刷新するにも金も人も無いしと、事業環境をみれば危機意識はご指摘ごもっともというわけです。

”GAFA”との関係

 もう一つ大きな事業環境で無視できないのは、海外の巨大ITプラットフォームの台頭です。”GAFA” = Google, Amazon, Facebook, Apple をはじめ、最近は中国版のGAFAともいえる”BATH”=バイドゥ(百度), アリババ, テンセント、ファーウェイの勢いも止まりません。
 これらの巨大プラットフォームの台頭により、国内事業者が侵食されるという直接的な問題に加え、大量の個人属性情報、行動情報などの補足・情報処理による競争優位性の固定化などが危惧されています。(さらには個人情報管理上のセキュリティー面での課題や、法人税などの租税公課などの課題も指摘されているがひとまず脇に置きます)

 さらにはロジスティックスを海外勢に押さえられる事から、各種の情報化のための仕様策定が、事実上プラットフォーマーの独自規格がデファクトになる可能性の危惧も指摘されます。(例えば商品マスターの採番ルールやトランザクション関連の記録の仕様はAmazonにコントロールされかねないなど)

 これらの巨大プラットフォーマー勢に対して一定の対抗競争力が維持できないと、国内流通事業者・小売事業者、さらには製品メーカーは体力勝負でじり貧に成りかねないという危機感があります。

結局のところ、”DX”で何をなすべきなのか

 そもそも”DX”言う前にデジタル化を何とかしろよという指摘もあり、その通りだと思うわけです。

「デジタルトランスフォーメーション」は組織を思考停止させる呪いの言葉
https://diamond.jp/articles/-/221695

そこで思い出すのがIT担当相が「はんご議連」の会長で、「印鑑とデジタル社会を対立するものととらえるのではない。工夫はいろいろできる」という見解を示したとの事で、おい、ちょっと待てとなったのは記憶に新しいところかと思います。

日本のIT担当相は『はんこ議連』会長
https://japanese.engadget.com/2019/09/13/it/

「競争上の優位性を確立」 が日の丸DXの目標であるという点に立ち戻れば、
(0)業務のデジタル化が出来ていない所は”DX”の前に、まずはペーパーレスが目標
(1)顧客接点のデジタル化対応(販売、マーケティング etc)
(2)企業間情報交換(契約や商取引の記録など)のための仕様策定
(3)バックヤード業務のデジタル化・自動化による効率改善
などが取り組むべき課題であります。

これらもかつて”BPR”、”ERP導入”などの旗を掲げて突撃していった企業も少なくないと思いますが、DXの実現のためには組織横断、会社横断で取り組まないと個別最適に小さくまとまり、とても大手プラットフォーマーとの対抗勢力になりえないという点が、事業環境のハードルが上がっている点でもあります。

 もちろん現場レベルでのQoS向上施策が無駄というわけでも無く、それはそれで進めるべき所ではありますが、RPA導入に関しての批判の軸の一つとしては、レガシーの操作を自動化する事で、非効率なレガシーシステムとその業務が塩漬けになる危惧と、業務・部門レベルでの最適化は見込めるものの、全体効率化のためのシステム導入のための障壁になりかねないという指摘です。

 つまり現場レベルの権限、予算規模での「DX導入」は局所最適の罠に陥りかねず、トップレベルでのDXの意義の理解とコミットが必要となるわけです。もちろん業種業態の違いや、会社の規模、商習慣の違いにより、導入後のあるべき姿やそこに至るまでの道のりについては、それぞれのプレイヤーが深く検討すべきところです。

 そんなこんなで、かつて勤務先のサービスが、Googleが提供する無料ツールに駆逐されて会社売却に追い込まれた経緯を目の当たりにした経験や、各種システム運用担当者と会話した感触からは、経産省の警鐘は時期的な前後や規模的な大小の違いはあると思いますが、現実化する確度は高いのではと個人的には思います。