子供へのコロナウィルスワクチンの接種是々非々を検討する際の補助線

2022年8月16日

例によって子供にコロナウィルスワクチンを接種させようとすると、反ワクチンの妻と言い争いになるわけです。報道も学術発表も医療機関も「都合の悪いことは隠しているので信頼できない」という事ですので、数々の大本営発表を並べても話が噛み合わないわけですが、自分の頭と情報の整理を兼ねてあれこれ並べてみました。基本的には学会、官公庁などオフィシャルネタを中心にし、個人ブログなどは入れません。反対派に関してもオフィシャル寄りと思われるものについて2件ほど挙げてみました。反ワク関連については、詠み人知らずのSNS、個人ブログ、YouTubeなど、多数のネタが転がっております。玉石混交すぎて大変です。
各種の数値は2022年8月現在のものです。

関係省庁・学会による推奨

まずは厚生労働省、関連学会は接種を推奨している件をおさらい。

COVID-19 ワクチンに関する提言(第4版)
(日本感染症学会 ワクチン委員会・COVID-19 ワクチン・タスクフォース)

5~17歳の小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方
(日本小児科学会)

なぜ、小児(5~11歳)の接種が必要なのですか。
(厚生労働省:新型コロナワクチンQ&A)

5~11歳の子どもへの新型コロナワクチンの効果・副反応と接種の考え方
(厚生労働省:新型コロナワクチンQ&A:川崎医科大学 小児科学 中野 貴司)

「mRNAワクチンによる遺伝子への影響」

これは投与初期からみられたデマですが、mRNA自体は非常に不安定であり、注射後にmRNAよりDNAが作られるわけではないため、遺伝情報に取り込まれる可能性は低いとされています。超低温貯蔵器でないと保管が困難なレベルの不安定で壊れやすい物質です。

参考情報:「mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンはワクチンとして遺伝情報を人体に投与するということで、将来の身体への異変や将来持つ予定の子どもへの影響を懸念しています。」
(厚生労働省:新型コロナワクチンQ&A)

この件に関しては、CDCの解説ページに"mRNAとスパイクタンパク質は体内に長く残らない”という部分を削除したと、反ワクチン界隈で話題になっているようです。該当ページがこちら。

”Understanding mRNA COVID-19 Vaccines"

履歴を見ると7/22~7/23の間に修正されたようです。同ページの下部にネブラスカ病院のQ&A記事、”mRNAとスパイクタンパク質はどれだけ長く体内に留まるのか?”には、引き続きリンクは残っているので該当箇所が削除された意図は分かりません。(新しい事実が見つかったのか、単なる編集上の都合なのかという意味で。)

How long do mRNA and spike proteins last in the body?

「長期的な免疫系への影響」

これらの注意を喚起する出来事としては、2022年1月に欧州医薬品庁(EMA)によるブースター接種を繰り返すことによる免疫反応への悪影響の懸念を指摘した件です。
ブースター接種の繰り返し、免疫反応に悪影響も-EU当局(訂正)
EMA regular press briefing on COVID-19 (2022/1/11)

オミクロン株の流行が見られた初期の頃のアナウンスですが、2回接種済であればオミクロン株に対しても比較的高い免疫を保て、変異株が現れるたびに数ヶ月毎にブースター接種を行う対策は、長期的な影響の評価が出てない状況では持続的な対策とするのは難しい。呼吸器系感染症が顕著になるのは冬季なため、それに合わせた接種戦略を検討すべきということです。

日本の場合、いわゆる第6波を経て7月から第7波に突入という状況ですが、夏のど真ん中に流行しているわけです。冬季に的を絞った対策という方針は残念ながら甘いわけで、季節要因とは関係なく感染状況を鑑みた対策が必要とされそうです。

長期的な有害事象に関しては臨床試験や動物実験のレベルでは、VAEDやAEDを示唆する証拠の報告はありませんが、接種開始から1~2年程度という事もあり、今後の監視が必要という点に関してはコンセンサスが取られていると思います。

現状では、臨床実験や世界的な接種実績の積み重ねにより、3回目接種(1度のブースター接種)までは5歳以上の世代では、デメリットよりメリットが上回るという判断が医療関係者のコンセンサスであると考えます。

ワクチンと副反応に関する情報

コミナティー(ファイザー/BioNTech)

スパイクバックス(モデルナ)

バキスゼブリア(アストラゼネカ)

ヌバキソビッドノババックス)

新型コロナウイルスワクチンの国内導入にあたって―mRNAワクチンとウイルスベクターワクチンの基本
(国立感染症研究所)

厚生科学審議会 (予防接種・ワクチン分科会 副反応検討部会) (厚生労働省:審議会の資料や議事録など)

ワクチン反対派の医療機関など

いわゆる「反ワクチン」派の主張は、「治験が終わっていない」「極めて短期間で開発されたので品質管理に懸念」から、「マイクロチップが混入されている」「金属片が混入している」「接種すると磁石が反応する」から、「国家・製薬会社の収益を上げるためのシステム」「DS=Deep State(闇の政府)による支配を目的とした計画の一部」まで様々な説が見受けられます。

新型コロナワクチン接種を起因とした死亡事例に関しては、7/10までに報告された死亡事例は1616件。コロナワクチンが直接の死因と認められたのは1件(リンク先はNHK)。多くが因果関係が「不明」とされています。これは、ワクチンが無くても起き得る偶発的な事象と区別が出来ない事に起因します。これは個々の患者さんの経過などを緻密の分析しないと判断が難しいところです。ある種の科学の限界だと思います。

比較的公的な立場で「反ワクチン」のスタンスを表明されている所では「有志医師の会」があります。

全国有志医師の会

また南出・泉大津市長が代表発起人の「こどもコロナプラットフォーム」があります。

こどもコロナプラットフォーム

乱暴に要約すると、子供の免疫力は高く死亡例・重症化例は極めて低く、接種による副反応の重篤事案の方が多いため、接種のメリットをデメリットが上回るというのが主な主張と理解しました。

考えの整理

医薬品に100%安全なものは無いわけで有害事象をゼロにするのは現実的でなく、該当してしまった人へのケアは必要ですが、大多数の人へのメリットがあるものであれば製薬治験の判断としては正しいでしょう。本邦では接種が急速に進んだことから、コロナ起因による死亡者数は約3.5万人と、他国の比較しても1桁少ない水準で推移しています。例えば、同規模の人口のロシアでは公表値でも37万人(60万人超えとの説もある)です。必要回数のワクチン接種が完了した割合は52%と低い水準です。少なくとも短期的なメリットは実証されており、ワクチン接種の否定は数十万人規模の死亡者を許容せよという主張と等価です。

今年の前半、第6波でオミクロン株が流行したあたりには子供の症例も少なく「子供は重症化しない」という意見が強く、接種事例も少なかったことから積極的な推奨に踏み出せなかった背景は理解できます。しかしながら、7月以降のBA.5の第7派では小児科に熱性けいれん、咽頭痛、嘔吐でぐったりする子供が次々と運び込まれて、重症例も散見されるようになったのは、小児科学会の見解にもあるとおりです。別の変異株 BA2.75 も登場して置き換えが進むとなると、8月に入って夏休みで子供間の感染拡大が抑えられ、ピークアウト感が出始めていると考えられますが、2学期が始まると再度、子供のコロナウィルスの爆発的感染のリスクは考えておくべきでしょう。

子供のコロナ症状の悪化、新型コロナ後遺症や多系統炎症性症候群(MIS-C)と、長期的に潜在的に起こりうるワクチンの副作用を比較して、メリット・デメリットの評価を行う必要性を感じるわけです。似た経緯を辿っているのは最近積極的接種が再開されたHPVワクチンです。報道が副反応に対する疑念を煽り立てた結果、積極的推奨を取り下げ、結果、年間1万人が罹患し3000人近くが亡くなっています。
ワクチンの長期的な影響がわからないから、40度近い熱が出て喉が痛くなってもしょうがないというのは、私には、ちょっとバランスを欠いた考え方に見えるんですけどね。